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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)121号 判決 1983年9月29日

原告

ゼネラル・エレクトリツク・コムパニー

被告

特許庁長官

上記当事者間の頭書審決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

特許庁が同庁昭和55年審判第19423号事件について昭和56年12月25日にした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第2原告の請求の原困

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和46年8月23日、名称を「焼結金属間化合物製品およびそれより作つた磁石」――ただし、その後、名称を「焼結金属間化合物製品より作つた磁石」と補正した――とする発明(以下「本願発明」という。)について、1970年(昭和45年)8月24日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和46年特許願第64324号をもつて特許出願をしたところ、昭和55年6月30日に拒絶査定があつたので、同年11月4日、これに対して審判を請求したが、昭和55年審判第19423号事件として審理された結果、昭和56年12月25日、上記審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は、出訴のための附加期間を3か月と定めたうえ、昭和57年2月12日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

実質的に安定な永久磁石特性を有し、活性磁性成分として粒状コバルト―稀土類金属間化合物材料の焼結製品を有する焼結コバルト―稀土類金属間化合物永久磁石において、前記焼結製品が、実質的に非連通である孔、少くとも87%の充填率、及び、(ⅰ)コバルト、(ⅱ)サマリウム、及び、(ⅲ)プラセオジム、ランタン、セリウム及びセリウムミツシユメタルからなる群から選択した第2の稀土類金属からなる組成を有し、前記成分(ⅲ)が前記成分(ⅱ)及び(ⅲ)の合計の10~90重量%の範囲の量であり、前記成分(ⅲ)がプラセオジムであるとき前記サマリウムとプラセオジムの合計が前記焼結製品の36~39重量%であり、前記成分(ⅲ)がランタン又はセリウムミツシユメタルであるとき前記サマリウムとランタン、又は、サマリウムとセリウムミツシユメタルの合計が前記焼結成品の34~39重量%であり、前記成分(ⅲ)がセリウムであるとき前記サマリウムとセリウムの合計が前記焼結製品の34~40重量%であることを特徴とする焼結コバルト―稀土類金属間化合物永久磁石。

3  審決理由の要旨

本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

これに対し、特公昭48―364号公報(以下「引用公報」という。)には、複合組織を有する永久磁石として、稀土類金属、イツトリウム23~30%、セリウム32~40%、サマリウム34~42%、プラセオジウム32~40%、あるいはこれらの混合物(ミツシユメタル)34~42%と残部Coとを含有し、RCo5相を50~95%含み残余R―Co化合物からなるものが記載(以下「審決指摘の第1記載」という。)されており、この中には、本願発明において第(ⅲ)成分がプラセオジムである場合、すなわち、コバルト―サマリウム―プラセオジム系であつて、サマリウムとプラセオジムの合計が36~39%である場合に相当するものであると認められる「…あるいはこれらの混合物(ミツシユメタル)34~42%と残部Coとを含有し」という磁性組成物に関する記載(以下「審決指摘の第1記載特記分」という。)がある。

本願発明では、第(ⅲ)成分が第(ⅱ)成分と第(ⅲ)成分の合計量に占める重量割合を10~90%と限定しているが、引用公報に記載されているコバルト―サマリウム―プラセオジム系の実施例6(以下「審決指摘の第2記載」という。)においても、プラセオジムのサマリウムとプラセオジムの合計量に占める重量割合は64%(60÷93.8=0.64)であり、前記の限定された範囲内に包含されるものであるから、上記限定によっても、両者間には磁性素成物として明確に識別しうる差異は存在しない。

本願発明では、更に、製品が非連通孔を有し、その充填率が少くとも87%と限定されているが、微粉末を原料とし、圧縮成形並びに焼結による粉末冶金法においては、焼結製品としてきわめて普通の状態であつて、引用公報記載の永久磁石も、磁気特性からも、非連通孔及び87%以上の充填率を有するものと推認されるから、この点においても両者間に実質的な差異はない。

したがつて、本願発明と同一構成のものが引用公報に記載されているものであり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決は、特許法第29条の2の規定を適用して本願発明は特許を受けることができないとしているが、本願発明と同一構成のものが記載されているとして審決が引用しているものは、先願である昭和44年特許願第77768号の特許出願の願書に最初に添付した明細書(以下「先願原明細書」という。)ではなく、上記先願に係る特許出願公告公報(引用公報)であって、審決は、対比すべき対象となる明細書を誤つた違法がある。しかも、引用公報の記載と先願原明細書の記載との間に差異がないのならともかく、その間には顕著な差異が存するのであつて、審決指摘の第1記載、同特記分及び同第2記載は、引用公報に記載されているにすぎず、先願原明細書にはこれに相当する記載は存しないのである。更に、先願原明細書に記載されたものは、合金の発明に関するものでありながら、発明の完成に不可欠の合金の組成割合をなんら特定していないのであって、発明として未完成のものというしかなく、特許法第29条の2にいう発明とはなり得ないものというべく、それにもかかわらず、これと本願発明とを対比してその間に発明の同一性があるものと認定した審決は、特許法第29条の2の規定の適用を誤つた違法がある。

以上のとおり、審決は違法であるのでその取消しを求める。

第3請求の原因に対する被告の認否

請求の原因1ないし3の事実、並びに、同4の主張のうち、審決指摘の第1記載、同特記分及び同第2記載は引用公報に記載されているにすぎず、先願原明細書にはこれに相当する記載は存しないとの点は、いずれも認める。

第4証拠関係

原告は、甲第1ないし第5号証、第6、第7号証の各1、2を提出し、被告は、甲号各証の成立を認めた。

理由

請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

上記当事者間に争いのない事実によれば、審決は、特許法第29条の2の規定を適用して本願発明を特許を受けることができないとするものでありながら、審決指摘の第1記載、同特記分及び同第2記載が存することを根拠に本願発明と同一構成のものが記載されていると認定して審決が引用しているものは、特公昭48―364号特許出願公告公報、すなわち引用公報(成立について争いのない甲第2号証。なおこれが本願発明の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に該らないことはいうまでもない。)であつて、引用公報をもつて出願公告された特許出願に係る願書に最初に添付した明細書、すなわち先願原明細書(成立について争いのない甲第7号証の2)を引用しているものではない。しかも、審決が上記認定の根拠として挙示している審決指摘の第1記載、同特記分及び同第2記載は引用公報に記載されているにすぎず、先願原明細書にはこれに相当する記載のないことは当事者間に争いがないから、審決が引用公報を引いているのは、実質的には先願原明細書の記載と対比して判断したところを単に便宜的に引用公報を挙示することによつて表現しているにすぎないものとみることができないことは明らかである。

してみれば、審決は、特許法第29条の2を適用するに当り、その規定するところに従つて先願原明細書の記載と比較することをせずに、引用公報の記載と対比して判断をしているものと認められ、比較の対象として引用すべき先願に係る明細書の選定を誤つた違法なものというべきであるから、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がある。

よつて、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(高林克巳 杉山伸顕 八田秀夫)

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